アベンジャーズのヴィジョンはスタークのAIアシスタントJ.A.R.V.I.S.が身体を獲得することで誕生した。AIが発展していく過程で意識が芽生えるのかは未知だが、身体を持たない意識が身体を獲得していく順序は人工生命の発展の流れとしては自然なように思える。
しかし逆に、人間の脳活動を計算機が完全にシミュレートできるようになったとして、個人の脳を計算機にコピーすることを考えた場合はどうだろう。ロドニー・ブルックスのサブサンプション・アーキテクチャによるボトムアップでロボットを設計することにより、ロボットが生物的な挙動を獲得し始めることはよく知られることである。トランジスタと生物の最小単位がハードウェア的に全く異なる物性であることは、サブサンプション・アーキテクチャの最下層をトランジスタではハードウェア的に実現できないことになる。いわゆるタンパク質や生物の基本的な単位が持つ自己複製、自己増殖のメカニズムがハードウェアとして組み込まれていないということだ。人としての意識はある部分、この細胞のハードウェアとしての意図に突き動かされている要素がある。計算機はハードウェアとして固定化されてしまっているので、たとえロボットとしての身体を持たせたところでそこには十分なボトムアップの感覚入力は、人間の頭でプログラムとして論理的にシミュレートできる範囲内に限定されるだろう。
人の意識を計算機上で再現するときに、コピーした瞬間は問題ないかもしれないが、このことは大きな障害を引き起こしそうだ。意識はトップダウンに記述された論理ではなく、身体を構成する各細胞、その集合体の各組織からの入力を積み重ねていった結果、発生しうる側面は抜きにして考えることはできない。つまり、通常は受けているはずの感覚入力がないことから、激しい痛みや、幻覚に襲われることになるのではないだろうか。脳活動のコピーが完了した瞬間に、その痛みの激しさにいきなりショック死してしまうかもしれない。たとえ誕生の瞬間を生きながらえたとしても、生身の身体を前提とした意識(プログラム)に対して十分な間隔入力のないロボットの身体では正常な意識を保つことは厳しそうだ。
その意味では、先のAIが独自の身体を獲得していきながら物理世界に働きかけられるようになることが先に起こりそうな未来である。